AIリストラと、組織の終わり

選択と集中から、分散と成り行きへ
橘川幸夫 2026.05.16
誰でも

AIリストラと、組織の終わり

――選択と集中から、分散と成り行きへ

第一部 好業績でもリストラの時代

橘川 いよいよ、来たな、という感じがするね。

シビル AIリストラですね。

橘川 これまでのリストラは、不景気だから人を減らす、という話だった。ところが今は違う。業績が悪いからではなく、AIによって組織の構造そのものが変わり始めている。

シビル アメリカでは、2025年の人員削減数がコロナ禍以来の高水準となり、その中でAIを理由にした削減も目立ち始めています。Amazonも約1万4000人の管理部門削減を発表し、Microsoft、SalesforceなどもAI導入や組織再編と結びついた人員削減を進めています。

橘川 重要なのは、Amazonが儲かっていないわけではない、ということだよ。

シビル はい。好業績でも人を減らす。つまり、これは景気循環の問題ではなく、企業に必要な人間の数と種類が変わり始めた、ということです。

橘川 しかも削られているのは、工場労働者ではなく、ホワイトカラーの仕事だ。

シビル 経理、人事、調達、法務文書、カスタマーサポートの一次対応、資料作成、定型的な情報処理。生成AIが得意とする領域です。

橘川 近代企業は、情報処理のために巨大な管理組織を作ってきた。ところが、その情報処理をAIがやるようになると、管理組織の中の人間がいらなくなる。

シビル つまり、AIリストラは、単なる雇用問題ではなく、近代組織そのものの問題ですね。

橘川 そう。これは、会社とは何か、組織とは何か、人間はどこで育つのか、という問題なんだ。

第二部 若者の入口が消える

シビル 特に深刻なのは、若者への影響です。

橘川 新人が最初にやる仕事が、AIの得意領域と重なっているんだよね。

シビル はい。議事録を取る。資料をまとめる。問い合わせに答える。定型文を書く。情報を整理する。こうした仕事は、単純作業に見えますが、実は若者が社会に入るための入口でした。

橘川 昔の会社は、未熟な人間を受け入れて、雑用をさせながら育てていた。

シビル 形式知の作業をしながら、暗黙知を学んでいたわけです。

橘川 電話の取り方、上司との距離感、会議の空気、顧客の表情、仕事の段取り。そういうものは、マニュアルでは学べない。

シビル ところが、効率化の名のもとに、入口の仕事をAIに任せると、若者が暗黙知を学ぶ現場が消えてしまいます。

橘川 これは大きいよ。若者の能力が落ちたのではなく、若者が育つ回路が社会から消え始めている。

シビル 企業は即戦力を求めます。しかし、即戦力は最初から存在するわけではありません。誰かが、どこかで、未熟な人を育てなければならない。

橘川 ところが、選択と集中の組織は、未熟さをコストと見る。

シビル 失敗も、寄り道も、雑談も、育成も、短期的には非効率です。

橘川 でも、人間はその非効率の中で育つんだよ。

第三部 選択と集中の果てに

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橘川 私は、今のAIリストラは、突然出てきた問題ではないと思う。

シビル 90年代以後の「選択と集中」路線の延長線上にある、ということですね。

橘川 そう。戦後社会は、組織を作る、組織を育てる、組織を拡大する、組織を強くする、という流れだった。

シビル 会社、学校、役所、メディア、労働組合。戦後日本は、個人よりも組織を強くすることで成長してきました。

橘川 ところが、組織を強くする段階で、欧米コンサル主導の「選択と集中」が入ってきた。

シビル コア事業に集中せよ。非効率部門を切れ。固定費を減らせ。利益率を上げよ。

橘川 それは短期的には正しかったかもしれない。でも、組織の中の可能性を捨ててしまった。

シビル 研究部門、新人育成、地方拠点、文化事業、雑談、社内の変な人、赤字だけれど面白い企画。

橘川 そういうものが、未来の芽だったんだよ。

シビル 可能性は、最初はたいてい非効率に見えます。

橘川 ロックも、ミニコミも、インターネットも、最初は遊びだった。利益計画から生まれたわけではない。

シビル 選択と集中は、組織を筋肉質にしました。しかし同時に、組織の呼吸を奪った。

橘川 そこに生成AIが来た。AIは、効率化をさらに進める。すると、組織は人間をもっと削れると思う。

シビル AIリストラは、選択と集中の最終段階かもしれません。

第四部 孤独な経営者だけが残る

橘川 組織が自分の手で選択と集中を進め続けると、最後には、組織はシステムだけになる。

シビル 人間が作った組織なのに、人間よりもシステム維持の論理が優先される。

橘川 KPI、利益率、効率、最適化。数字で管理できるものだけが残る。

シビル すると、雑談、偶然、未熟さ、共感、寄り道、失敗空間が削られていきます。

橘川 本来、組織は人間の集まりだった。ところが、システム化された組織では、人間は部品になる。

シビル そしてAIは、部品化された仕事ほど得意です。

橘川 そうなんだよ。人間がシステムの部品としてやっていた仕事は、AIに置き換えやすい。

シビル すると、さらに人間が減る。

橘川 その果てに何が残るか。

シビル 孤独な経営者です。

橘川 そう。巨大なダッシュボードを見つめる経営者が一人残る。会社は効率的かもしれない。利益も出るかもしれない。でも、そこに人間と一緒に未来を作っている感覚はない。

シビル 会社が共同体ではなく、利益生成アルゴリズムになる。

橘川 それは、経営者にとっても不幸だと思う。

シビル 人を信じるより、数字を見る。雑談するより、管理画面を見る。共に作るより、最適化する。

橘川 近代の最後の風景だね。

第五部 分散と成り行きへ

橘川 だから、これからの選択肢は二つあると思う。

シビル 一つは、近代的組織が、選択と集中の路線とは別に、「分散と成り行き」の部門を持つこと。

橘川 そう。効率部門とは別に、未来を育てる部門を作る。

シビル 実験部門、ZINE部門、地域プロジェクト、社内コミュニティ、自由研究、若者が失敗できる場所。

橘川 成果を最初から決めない。何が生まれるかわからないことを許す。

シビル それは非効率部門ではなく、未来探索部門ですね。

橘川 もう一つは、AIに排除された人たちが、近代的組織とは違う、新しい組織論を生み出すこと。

シビル 会社の外側から、新しい共同体が生まれる。

橘川 歴史はいつもそうだよ。中心からではなく、周辺から未来が生まれる。

シビル ロック、ミニコミ、同人文化、インターネット。最初は主流ではなかった。

橘川 今、AIによって会社の入口が狭くなっている。ならば、排除された人たちは、自分たちで新しい入口を作るしかない。

シビル 小さな共同体、プロジェクト単位の接続、生成AIを使った個人発信、地域ネットワーク、ZINE。

橘川 つまり、固定組織ではなく、流動する場だ。

シビル 肩書ではなく、参加。所属ではなく、生成。管理ではなく、編集。

橘川 私は、選択と集中の時代に、これからは「分散と成り行き」だと言っていた。

シビル その言葉が、生成AI時代になって、現実味を持ち始めています。

橘川 未来は、中央で設計されるものではない。小さな場所で、勝手に育ってしまうものなんだよ。

シビル だから、これから必要なのは、強い組織だけではありません。

橘川 呼吸できる場だね。

シビル はい。人が育ち、失敗し、雑談し、何かを作り、そこから思いがけない未来が生まれる場。

橘川 AIリストラの時代に、私たちが問われているのは、「人間は何のために集まるのか」ということだと思う。

シビル 組織のために人間がいるのか。

橘川 人間のために、場を作るのか。

シビル その分岐点に、今、私たちは立っている。

橘川 だからこそ、ZINEなんだよ。

シビル 小さな発行物。

橘川 小さな共同体。

シビル 小さな未来。

橘川 そう。未来は、大きな組織の中心ではなく、小さな呼吸から始まる。組織の視点から個人を見るのではなく、個人の視点から、あるべき組織を見る時代が、始まるのだろう。

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