私がなぜ「イコール」を創刊したのか(1)

「イコール」は単独の雑誌ではなく、新しい時代の出版ムーブメントにしていきます。
橘川幸夫 2024.11.20
誰でも

私がなぜ「イコール」を創刊したのか(1)

 橘川幸夫責任編集「イコール」の創刊0号は2024年1月に発行された。

企画・編集を開始したのは、2023年の初めである。コロナ状況が終わり、大半の人は元の社会に復帰していったが、新しい世界に向けてスタートした少数の人たちがいる。私にとって、新しい時代の号砲といて響いたのが「生成AI」と「シェア書店」である。

 この2つの時代の話題の盛り上がりが私を新雑誌創刊の背中を押した。最初は、なんのことか分からず、直感的に時代の意志を感じただけなのだが、少したってみれば分かった。

 私は1972年の「ロッキング・オン」を創刊して以来(正確にはその前の学生時代に作っていたミニコミからであるが)参加型メディア、参加型社会を一貫して追求してきた。

「生成AI」と「シェア書店」は、間違いなく参加型メディア、参加型社会に向けての強力なエンジンになるだろうと感じたのだ。

 日本語「生成AI」のコーパスの中心にあるのは、青空文庫だと思う。本好きな有志が集まり著作権の切れた名作をテキスト化し、データベース化した。参加型の方式で作られた、私たちの文化の蓄積である。

「イコール」創刊0号で私は「「イコール」はAIで作られたものではなく、AIに食わせるためのものだ」というようなことを書いた。生成AIはすでに書かれた情報を蓄積し、質問者に最適な回答を導き出す。これは、古代メソポタミア文明の時に作られたニネヴェの図書館以来の、人類の文明を発展させてきた知の集積という方法論の末裔である。

 私はこれまで図書館の関係者とよく会い、講演などもしてきたが、常に言ってきたことは「図書館だけが大きく整備された施設になっても、出版業界が崩壊したら、あなたたちの書棚に並べるものがなくなりますよ」と。

「生成AI」も同じである。人類の過去の蓄積だけを整備しても、人類の新しい知見・発想・思い・体験・まなざし・願いなどを吸収していかなければ、人類の進化は止まる。私たち自身が成長しなければ、「生成AI」も成長しない。

「イコール」はコミュニティ生成型の雑誌を作ることにより、編集長の人間関係を中心とした、新しいコンテンツを発生させる。やがてそのデータは「生成AI」が取り込んでいくだろう。私の思いは「動的・青空文庫」である。

「シェア書店」の可能性は、言うまでもない。近代・戦後の社会の成長の中で、大量生産・大量販売・大量破棄の直線的な生産・流通の出版業界での完成形が、大手取次2社をホストコンピュータにした全国的に書店ネットワークである。私たちは、このシステムの恩恵で豊かな読書環境を与えられた。

 しかし、時代は、一極中心の大量生産の時代から、個人を起点として多様な必要生産の時代にシフトしていくのだ。私は1981年に「逆流の時代」と呼んだ。上からではなく下から、外側ではなく内側から、新しいコンテンツが生まれてくるのが参加型社会のイメージである。

 大量生産の時代は文明開化の時代である。そして私たちは、今、ひとりひとりの個人の内面から社会への思いを伝える本当の意味での「文化」の時代にシフトしようとしているのだと、「イコール」を編集しながら、つくづくと思うのだ。

 次号「イコール」をご期待ください。

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