『イコール』編集長日記 紙のメディアの特性について

 ネットであろうと紙であろうと、文章を書く態度が、自分の表現欲求なのか、業務処理なのかで、伝わるものが違うはずである。
橘川幸夫 2024.05.27
誰でも

 イコールは紙のメディアである。なぜネットメディアではなく、紙にしたのか、と言うことは、私が、紙のメディアを作り続けながら考えなければならない課題である。

 Googleマップが出来て、知らない地域に行った時に迷うことがなくなり、ものすごく助かっている。これがなかった時代は、よく地方の町に行って、勘で歩いて迷宮にはいりこんで、焦りながら走り回ったことが何度もあった。自分の位置と目的地が俯瞰して確認出来るのはたすかる。

 しかし、システムが整備されて戸惑うこともある。最近、神保町や新宿にある、昭和な喫茶店やレストランに、若い連中が行列している。昔から使っていた店が、ネットで歴史を知った若者たちの観光スポットになっているようだ。

情報システムがまだ普及してなかった昭和の時代は、飲み屋や食べ物屋は、その店を知ってる先輩や友達に連れて行ってもらった。たまたま入った店が気に入ったら、その店に友だちを誘ったりした。そのうちに、通い慣れた店の常連となる。

 情報システムが普及した今は、食べログなどのグルメサイトで検索して、評判店を探す。それが先鋭化すると、まるでスタンプラリーのように、有名ラーメン店を回ったり、昭和喫茶店を回ったりする。そういう客は、情報を消費しているので、お店の人と関係したり、馴染みの客にはならず、一度だけの観光客になる。

 広島のお好み焼きの店が、インバウンドの観光客で行列が出来るようになった。大繁盛で結構なことだが、コロナの時に支えてくれた常連客が入れなくなり、観光客お断りの日を作った。店にとっては、大量の一見客も大事だが、常連との関係性も大事なのだ。

 紙の雑誌の情報は、ネットと同じデータではあるが、その情報にヒトが感じられるはずである。ネットは情報が主役だが、紙は著者と読者の関係が主役になる。先輩が連れてきてくれた店のように、新しい知識や報告をもらえる。

 そして、これが私の参加型メディアの本質なのである。イコールは、参加型メディアである。それは、掲載される原稿が、原稿料で依頼した原稿ではない、というのが最大のポイントである。著者が誰かに依頼されて書いた原稿ではなく、自発的に書きたい衝動が大事だと思っている。そして、私と著者の関係で、著者が追求したいテーマに賛同したら、ページを用意する。だから、書かれた情報の中に書いた人間が見えるはずなのである。70年代のロッキングオンがそうだったし、ポンプがそうだった。

 ネットであろうと紙であろうと、文章を書く態度が、自分の表現欲求なのか、業務処理なのかで、伝わるものが違うはずである。

 イコールは、コミュニティで作る雑誌である。ここに掲載するためには、原稿のクォリティやとくだねではなく、私と関係性を作らなければならない。客観的な商品性で評価するのではない。

 私だけのフィルターでは、限定的になるので、編集長の増殖型として、複数の編集長が、それぞれのコミュニティを中心にしたイコールを準備中である。

イコールは新しいライターを募集している。それは私の新しい友だち募集なのである。

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