ジャニーズ問題の何が問題か(2)
(1)ジャニーズはなぜ権力を持てたか。
柳瀬 博一くんが、週刊朝日の表紙でジャニーズを使っていたことの理由を分析していて面白い。本文の中身は高齢者中心なのに、ジャニーズを表紙にすることで20代以下の女性の購読者が増えているのだ。表紙だけで部数が稼げるなら、出版社の営業も表紙にジャニーズ使うことを編集部にプッシュするだろう。
一時期書店の雑誌売場で並んでいる雑誌がジャニーズばっかりで異常だった。雑誌の本文はプロマイドのおまけなのか。それを受け入れる編集者の矜持とは。
(2)80年代バブルで何が起きたか
のんちゃこと能年玲奈さんがレプロエンタテインメントを辞めたことで業界から干されていたのを見かねて、Speedy社の福田淳さんが面倒を見ることになった。福田さんはソニーピクチャーズでハリウッドの芸能界と仕事をしていたので、日本の古臭い興行師の世界で、タレントの人格を無視した横暴さに違和感を感じていた。テレビ局の現場からは「のんちゃん」を使いたいとオファーがあるのだが、上層部に企画があがると没になる。番組制作の現場では「のんちゃん」の魅力を理解しているが、政治的な判断で番組が作れないという。
福田さんの話ではテレビ局の制作現場では一生懸命に良い作品を作ろうとしているのは昔も今も変わらない。ただ、80年代バブルの時代に、トレンディドラマが大流行して、脚本より人気タレントをキャスティングすれば番組はヒットするという方程式が確立してしまった。そのことによって、売れっ子のタレントを抱えている芸能プロダクションの権力がどんどん強くなったのだ、と。
芸能事務所の有力度ランキングというのがある。
数ある芸能事務所の中から優良企業100社を厳選しランキング化。大手事務所から小規模事務所まで、業界で力を持つ芸能事務所がわ
1位はバーニングプロダクション。2位は ジャニーズ事務所。3位は吉本興業。4位はホリプロ。5位はアミューズ。6位はエイベックス。7位はワタナベエンターテインメント。8位は オスカープロモーション。9位は スターダストプロモーション。10位はケイダッシュである。
レプロエンタテインメントはバーニングの傘下になる。能年玲奈さんが民放に出られなかったのは、バーニングが圧力をかけたというより、放送局の幹部がバーニングの威光に忖度しているのだろう。「のんちゃんをテレビに」という声があがってきたが、それは、ジャニーズ事務所に対する忖度の自己検証と同じようにバーニングに対する自己検証の必要があり、メディア各社は、現在の番組制作の基本を揺るがすことになるので、沈黙しているのだろう。
80年代以前は、テレビの制作は、企画と台本が中心にあり、その企画にあったキャスティングをしていたのだと思う。それが80年代バブルで、視聴率を取れるのは内容よりもキャスティングだという流れが起きたのではないか。それに合わせて有力タレントを抱えているプロダクションの権力が強まったのではないか。
週刊朝日のジャーニーズ表紙のようなキャスティングが横行したのだと思う。タレントや芸人に興味のない私は、テレビ視聴から遠ざかっていった。
(3)出版社の80年代
出版業界にも同じような流れが80年代に起きた。バブルまでの出版業界は、豪傑のような編集者がたくさんいて、自分の企画を押し通していた。優れた作家はだいたい簡単に原稿を書いてくれない。簡単になんか書けないのが文章である。編集者が惚れ込んだ作家には何度も何度も家に押しかけて原稿依頼をする。締め切りを守らない作家に、粘り強く付き合って原稿を書かせる。
それが80年代バブルで大きく変わった。出版社が数値主義になった。それまで、それぞれの出版社は社風があって、自分のところで出す作家のトーンが決まっていた。しかし「売れた作家が正しい作家」になって、売れる作家に出版社が殺到する。良い編集者は、以前は、自分の出版社らしい本を出す作家を見つけてくることだったが、売れればそれが良い編集者になった。原稿締め切りを守らない作家は、切り捨てられた。
書店の書棚にはたくさんの種類の書籍が並ぶようになったが、おなじような顔ぶれと、売れてる企画の二番煎じが多すぎるような気がする。
テレビも出版も、80年代バブル以前の気持ちに戻って、新しいテレビ文化、出版文化を目指さないといけないのではないか。
(4)カレンダー問題
出版業界でカレンダーは隠れたヒット商品である。季節商品なので売れる時期は限られるが、利益率は高い。そしてジャニーズである。ジャニーズファンであれば、暦が過ぎていても、写真欲しさに買うのではないか。
これから次のような出版社が続々とカレンダーを発売する。アイドルごとに出版社を変えて、出版社への影響力を高めてきたのだろう。定価はすべて同じである。企業やテレビ局にジャニーズの起用を問うジャーナリストは、出版社のこうしたビジネスモデルにどう問いかけていくのだろうか。
(4)当事者は誰か。
ジャニーズ問題の不思議なのは、強姦された少年たちの親たちは何も言わなかったのだろうか。普通、子どもが酷い目にあったら、怒鳴り込むなり警察に相談するものではないのか。親も、有名になるためには我慢しなさいと見て見ぬふりをしていたのか。
ジャニー喜多川、ジャニーズ事務所、メディア関係者、広告スポンサー、ファンたち、そして家族と本人。それぞれがそれぞれの立場で、問題の本質を探る必要がある。ジャニー喜多川の友人たちに政治家につながらるという噂もある。
この問題は、一時的な騒動で終わらせてはならない、組織のパワハラやセクハラにつながる日本社会の構造的問題であり、二度とジャニー喜多川のような怪物を生み出さない社会を育てていく必要があると思う。
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AIの時代の「出版」思考(橘川幸夫)
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