出版業界の歴史(3)雑誌とは何か?
私たちの歴史をこう考えている。
最初に動物としての人類が発生し、やがて意識と想像力を発展させて言葉を発明した。言葉によって、個の体験が遺伝子レベルではなく、次世代に継承出来るようになった。メディアの獲得である。やがて自然村として共同体が誕生する。
自然共同体の住人は更に自覚的になりコギトを発見し、コギトを自覚した新しい個人たちは自然村を脱出して外の世界に旅たち、やがて都市という人工的な共同体に集合してくる。
雑誌は都市文化の中で発生した。
スポーツが好きな人はスポーツ雑誌を購読する。旅行が好きな人は旅行雑誌を購読する。お金儲けが好きな人はマネー雑誌を購読する。
つまり雑誌とは、人類史における「自然村」「都市」に続く「情報的共同体」の模索だったのだと思う。近代における雑誌のコミュニティは、近代印刷術を越えた情報通信技術により、インターネットとして発展した。インターネットとは、無数の雑誌コミュニティの集合版なのだ。
私自身が1972年にロッキング・オンを創刊し、78年に全面投稿雑誌ポンプを創刊した時から強く感じていたのは、雑誌というのは、共通のテーマや問題意識、感性などがメディアを通して共有される情報共同体なのだということだ。
そして、この情報共同体は、これまでの地理的共同体とは違って、住人はそれぞれの感性で複数の共同体に所属出来る。生まれ故郷は一つだけに縛られてしまうが、情報共同体は、所属することも離脱することも可能だ。
林雄二郎は、こうした情報共同体のことを「ファンクショナル・コミュニティ」と名付けた。ファンクョンキー一つで切り替えることが出来る共同体だ。
紙の雑誌は、インターネットへの過渡期の産物だったのだろう。「ぴあ」という情報誌は、インターネット的世界を先取りしたから売れて、本物のインターネットが登場したら意味を失った。70年代から80年代の日本各地でタウン情報誌が栄えたが、インターネットの登場で崩壊した。各種の専門雑誌やマス雑誌も、インターネットの衝撃をもっとも受けたのは雑誌部門であるる
80年代に私はマーケティングの仕事をしていて、特に若い世代の意識調査や感性調査を行っていた。80年代以後の若い世代の特徴は、一言で言えば「所属はすれど帰属せず」ということだとまとめていた。
人間は一人では生きられない。同時代を生きる他人との共同生活が生きる土台である。自然村からはじまり、個人の自覚を産み、個人が集まって新しい共同体である都市を誕生させ、さらに、その中で「企業」という人工的な共同体を発明した。同時に個人は、自らの趣味やテーマごとに雑誌を購入し、情報的共同体に所属したのである。その流れ先にインターネットが登場したという認識は大事だと思う。
さて、それでは雑誌と対応した書籍は、どうなっていくのか。
(続く)
すでに登録済みの方は こちら