出版新時代に向けて(1)
第一章 出版業界の歴史と現場に対する認識
(1)町から消えていくもの
町から書店が消えていく。書店が普及したのは、敗戦で焼け野原になった日本の復興の流れとともにであり、戦後高度成長の時代に全国津々浦々に展開し、高度成長以後も人々の新しい知識や情報への渇望とともに成長し、有力書店は大型化し戦国時代そのままの国盗り争奪の時代があった。それは書店に限らず、八百屋や文房具屋や雑貨屋や時計屋や飲食店なども同じである。
21世紀を迎える90年代から、インターネットに代表する社会のシステム化が急速に世界を変えていった。町の商店は統合化された大手の総合スーパーやコンビニに吸収されシステムの端末化とされた。書店だけが消えているのではない。
インターネットは情報管理システムなので、出版業界の成長の原動力であった「まだ少数の人しか知らない情報をたくさんの人に届ける」という機能を全面的にインターネットに奪われた。一部の人しか知らない「特ダネ」「スキャンダル情報」「噂のグルメ店」「専門家の得意技」「有名人の知られていない側面」などを記事にしていた雑誌がインターネットに食われることになった。72年に創刊された「ぴあ」は、新聞の片隅にしかなかった映画情報をまとめることで、情報価値を持ち、若者の必須アイテムになった。「ぴあ」はインターネット情況を先取りしていたから若者に受けたが、本物のインターネット情況になると役割が消滅した。情報のスピード提供が商品力であった「新聞」「雑誌」の価値がインターネットの登場で役割を喪失した。
(本原稿は、橘川幸夫責任編集『イコール』にて、掲載予定の原稿です。)
橘川幸夫編集の『イコール』次号は、2025年1月1日発行です。
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