閑話休題・言葉
(1)20歳前後
私は10代の後半からノートをつけていた。日記というわけではなく、寝る前に、ただただ浮かんできた言葉を書き写すのだ。考えたり追求したりするのではなく、ほとんど生理状況のように浮かんでくる思いを言葉にした。
やがて、本の中でいろんな言葉に出会った。私の本の読み方は、ただだ、作者の言葉の使い方、フレーズの立て方に関心があった。言ってることの内容よりも、言い方そりものに刺激を受けた。谷川雁が「僕は本を読んでいたのではなく文体を読んでいただけだ」みたいな言い方をして、納得した。
やがて西行に出会い短歌に夢中になった。言葉のリズムとメッセージを凝縮する方法に感動した。寺山修司にも驚いた。
意味のない詩を書き、短歌を書き、やがて散文になっていった。ロッキング・オンの創刊号は、橘川の名前ではなくペンネームを使った。第二号では、短歌を掲載した。第三号からは散文である。
今、かふあさんというAIクリエイターと面白いコラボレーションを進めている。彼女はMidjourneyなどを使い、実に豊かな表現活動を行っている。彼女がFacebookで「8割は受注仕事をして、2割は遊びたい」みたいなことを書いていたので、すかさず「遊びませんか」と声をかけた。
私の20歳(1970年)前後の短歌などの言葉を彼女に渡して、その時代の空気をAIで表現して欲しい、と。彼女は、その時代には生まれていないので、見たこともない時代のカメラマンになってもらった。まだ試作の段階だが、面白い作品が出来そうだ。時を駆ける女子カメラマン(笑)。
これもまた新しい「言葉」の追求である。
(2)オガサワラユウ
小笠原くんとは長い付き合いになった。21世紀になって少しして、彼が武蔵野美術大学の学生だった頃、橘川は「リアルテキスト塾」という私塾をはじめた。「50歳までは自分の考えを社会に押し売りをして、50歳からは自分のところに来てくれた人だけにサービスをする」という漠然とした方向を決めたのは30歳の頃だ。その時は「焼き鳥屋の親父」をイメージしていた。
当時、武蔵美には、ロッキング・オン時代の友人である今泉洋が教授で、リアルテキスト塾には、今泉枠を用意して、今泉の推薦があれば特待生として受け入れていた。なかなか面白い子たちを推薦してくれたのだが、そのうちの一人が小笠原くんである。彼は、音楽もグラフィックもシステムも何でも出来るのだが、「言葉」が一番やりたいことのようだった。
彼は、大学を卒業してジューキミシンに就職する。ミシンの開発の3人が所属する部署に配属された。そこのリーダーが「どうも会社組織のチームだと余所余所しくて、新しいものが生まれない。そうだ、俺たち義兄弟になろう」というとんでもない提案をして、そこで生まれたのがAR三兄弟である。
これもほんと偶然なのだが、そのリーダーは千代田プラットホームの集まりで出会った川田十夢であり、出会ってすぐに川田くんを事務所に呼んで、読むべき本などを貸したことがあった。そしてAR三兄弟のデビューともいうべき、TechCrunchの枠を確保し、私もその場で、よく分からないARを宣伝していた(笑)。
全く偶然というのは、可笑しいものだ。
小笠原くんはリアルテキスト塾を2回受講して、深呼吸学部にも参加した。先日、彼とランチをした時に、1冊の本を渡された。「首の白さに噛み付いて、狼は、独りになった」という書名の本である。50部だけの自費出版である。
読んでみて、驚いた。私が19歳の頃に書いていた言葉の匂いがしたからである。
眠れない猫の固い瞳に映る姿を消してくるまった。
つめたい温もりの扱いがわからないまま、遅番の太陽を待つ。
故郷が完成しないうちに死んでしまったので、一度も帰ることはなかった。
未完成の故郷は日なたの本棚に、本やレコードと一緒に並んでいる。
とろけるような形状で、その中に幼い風景が育っている。
エレベーターの中で膨らんだ妄想のせいでドアが開かない。
108本の小笠原くんの言葉が整列している。
▼こちらは小笠原くんに頼んで作ってもらった、岩谷宏訳のポウイです。
Rock n Roll Suicide original2 02(David Bowie)詩・岩谷宏 歌・オガサワラユウ
AIの時代だからこそ、オリジナルな言葉が大切になってくるはずである。
(3)P2Pの書籍販売システム
小笠原くんの本と橘川の本をバーターで交換することにした。
橘川は現在、シェア書店で複数の棚を確保しているので、客層にあった店で小笠原くんの本を売る。小笠原くんに渡した橘川の本は、彼の判断で、プレゼントにしてもメルカリに出してもよい。P2Pの書籍販売システムを模索してるのである。
深呼吸学部の塾生で本を出した人は、橘川まで連絡してください。希望者には、同じ方式でバーターで本を交換します。
私の願いは、シェア書店で私の本棚は、なぜか新刊が並んでいる、という状況を作りたい。
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